未だ大卒の給料が3万ぐらいの時分に輸入物の高級オーディオ製品は押しなべて20万円以上していたのだから、当時いくら音楽が好きでもおいそれと買えたものではなかった。
実際レコードも3000円くらいしていたからサラリーマンや学生には高嶺の花で、街の音楽喫茶やジャズ喫茶は結構にぎわっていたと思う。
オーディオブームの後、今ではクラシックレコードを聴かせる名曲喫茶はほとんど全滅してしまい、知る限り吉祥寺のバロックや道玄坂のライオン、それに阿佐ヶ谷のヴィオロンなど都内にももう数えるほどしか残っていない。
訪ねて見てもどこも古色蒼然としていて、雰囲気はあるがなんだか店を立たときにはほこりまみれになった気がするのは小生だけだろうか(^^);
名曲喫茶を含めジャズ喫茶でも往年の名器を見ることが多いが、偏見をお許しいただければどこも大した音では鳴っていない気がする。これは自宅のオーディオ装置が随分良くなったせいだろう。
自宅のスピーカーは1952年ころのアメリカの製品でモノラル時代の物だからもう作られて既に70年を超える自分の年齢と同じビンテージ品。
最新の美しい外国製の超ド級のスピーカーに比べれば周波数特性も何もかも劣っているのは仕方がないが、それでも出てくる音は人肌の穏やかで神経質さのない音です。
現代のスピーカーは正確無比に設計されているがどうも聞くと冷たくなじめない。
いろいろ使ってみるとアンプは最新の高性能なものが良く、スピーカーは楽器型の昔の物が良いという結論に達する。
往年の名器と言えばアンプではマランツ、マッキントッシュのいずれも真空管アンプであり、スピーカーではタンノイ、JBLというところが幅を利かせているが、真空管のアンプのマランツ7は程度の良い物は300万近くするのでびっくりを通り越してお口あんぐりでタンノイのオートグラフなどは700万でもすぐ売れるとか(苦笑)。
でも中身は真空管もコンデンサーも当時の物は古くて使い物にならないのでほとんどが新しくなっていて、それが本物かは誰にもわからないのが売り手にはいいのだろう。ビンテージの神格化は古物を専門に扱うお店には願ったりかなったりだ。
銀座にその手の物を扱う高級店があるが、ばか高い値段をつけても日本中からバカな客が来て、右から左と買って行ってくれるらしい。
イギリスのワーフェデールと言うスピーカーメーカーの社長はずいぶん昔にスピーカーは楽器です、わが社は美しい音を出すスピーカーしか作りませんと言って評論家に失笑されたことがあったがどうもそちらの方が正しい気がする。
なので我が家に新しく入ったスピーカーはエレクトロヴォイスのリージェンシーという何十年前の物かもわからない代物のビンテージ品です。
アナログレコードをかけると、当時どのような思いでこのスピーカーを作ったのかを偲ばせるような良い音で鳴っているのをソファーでうたた寝をしながら聴くのは楽しいものです。