ベートーベンの肖像画から見る姿は、謹厳実直でユーモアのかけらもなさそうな典型的なゲルマン民族です。
だから演奏も生真面目で理屈っぽいドイツ人が最高!だと思われ、実際名演奏家や名指揮者はオーストリアドイツ系が多いのですが、聴いていて楽しいのは断然フランス系。
フランス人のアンドレ・クリュイタンスがベルリンフィルに入れた交響曲全集が出色の響きです。
ピアノソナタ全集は鍵盤の師子王と言われたウイルヘルム・バックハウスにとどめを刺しますが、一方でフランスの名手イヴ・ナットが極めて流麗です。私はこちらの方がお気に入り。
後期のピアノソナタは美人ピアニストとして大戦前に一世を風靡したフランス人のヨーラ・ギュラーが80歳を目前に入れた31番と32番が仰天の名演ですからわからないものです。これは本当にすごい演奏で、フジテレビが取材に来た時にも聞いてびっくりして帰っていきました。先日までYouTubeに出ていましたのでご覧になった方もいると思います。
そのほかにも最近のピアニストで出色の者はロシアのソコロフさん。
仙フィルのバイオリニストたちが家に遊びに来た時にピアニストで誰が聴きたいか聞いたら、断然ソコロフだと言っていたのでCDの全集を取り出して聴かせましたが、演奏家の間ではすでに神格化されているようです。そういえばその団員はヨーロッパで実演を聞いたとか言ってました。
一方で我が家には何でもあるのでびっくりもしていましたが(笑)。
また両親をソビエト共産党にスパイの濡れ衣を着せられて殺された悲劇のピアニストのヴェデルニコフでもいいし、夭折したソフロニツキーでもいい。いずれもソ連盤のガチャガチャのレコードを何とか手に入れて聴いています。最近はCDでも手に入るのでどうぞ。心の深淵に迫る名演奏ばかりです。
バイオリンでは現在のドイツがまだ分裂された東ドイツだったころの名手カール・ズスケと、ソ連時代のユリアン・シトコヴェツキーが双璧でしょうか。ズスケはベートーベンと同じ時代の教育を受けて来たのでうまく弾ける、とインタビューに答えていましたがソ連時代は天才クラスと言うのがあって、天才少年を集めて一切外に出さない教育をしていたそうです。一度自由の味を覚えたら亡命されてしまいますものね。
これらは大手出版社の推薦盤には絶対に出てこない名演奏家ですし、実際に 一度これらのレコードを聴いたが最後、有名盤には戻れなくなってしまいますから恐ろしいことです。
そのほかにも全く名前の知られていない名手がマイナーなレコードとして星の数ほどあるのでそれを探し求めるのもこの趣味の醍醐味と言えましょう。